【書評】『財政と民主主義  ―人間が信頼し合える社会へ―』神野直彦(岩波新書)/池田

2025.02.18 22:16 - By TK

池田昌博

 衆議院選挙を終えたが、減税を唱えた政党が躍進している。国民民主党は所得税における基礎控除拡大、揮発油税におけるトリガー条項の凍結解除、れいわ新選組は消費税ゼロを主張している。一方で、石破新首相は財源確保のため法人税や金融所得税の見直しを総裁選で主張していたが、こちらの論議は進んでいない。

 政策を推進するにあっては、政策論議が求められるが、少なくとも財源論をしっかりと固めないと次世代に大きなつけを遺す。既に国家予算の4分の1は国債により賄われているが、補正予算では国債の償還費と利払いがほぼ同額である。本書は、これらの問題に警鐘を鳴らしてきた著者が、失明の危機、重病を抱えながら長年の研究成果をまとめ上げた渾身の1冊である。

 先ず、本書は、新自由主義による「政府の縮小と市場拡大」は人間と自然の関係である自然環境だけでなく人間と社会の関係である社会環境を破壊する、私たちが際限ない社会環境と自然環境を破壊する「強盗文化」の中に存在していることを力説し、コロナ禍の中、我が国は大きな政府を指向せざるをえなくなり、債務残高は国際的に比較しても突出し、財政が有効に機能する能力を奪い取っていることに危機感を示す。

 著者は、福祉国家の行き詰まりへの克服への道は、「新自由主義による財政の縮小と市場のグローバル化」ではなく「租税負担を高めて社会保険の現金給付に現物給付を加えたセットで生活保障を行う福祉国家の再編成」であり、「所得税と一般消費税の基幹税とする祖税体系を構築せざるをえない」としている。その一方、法人税、金融課税の強化の必要性を述べつつ、社会保険料は定額負担もあり逆進性が強く、地方税総額どころか国税総額をも上回り応能負担には程遠いことに警鐘を鳴らし、税と社会保険を一つの制度として考えるべきと述べている。

 このなかで納税者に容易に理解を得られないのが、「所得税と一般消費税の基幹税とする祖税体系を構築せざるをえない」という部分である。著者は消費税の逆進性は認めつつも、その必要性を唱えている。歳入構造の改善には、所得税の累進強化、金融課税、法人課税の強化が求められるが、法人税を除き、大きな歳入効果は期待できない。格差拡大の中で富裕層が増加したとは言え少数派に過ぎない。我が国では国家に対する信頼感がなく、納税者は納税を忌避する。このため税の歳出先の論議も必要だが、先ずは財政論議を行わないと子や孫の世代に対して負の遺産を残す。高福祉、高負担は北欧で実践されてきたが、今、この理念が攻撃されているという現実もある。今一度、著者の思いを本書により知っていただきたい。

TK