池田昌博
池田昌博
柳原白蓮のご長女「宮崎蕗」が記した「白蓮 娘が語る母 燁子」を拝読する機会に恵まれた。
本書は、蕗様の母白蓮を中心とする宮崎家にまつわる貴重な歴史的記憶を福岡県飯塚の郷土研究者「宮嶋玲子」がとりまとめたものである。白蓮はこの飯塚で炭鉱王「伊藤伝右衛門」と妻として若き日を過ごしている。
読後、先ず感じたことは、白蓮の生涯が旧皇族の身分を越えた若き革命家との恋物語としてしか語られず、宮崎家の一員として、戦後、日中友好と不戦のための多大なる功績が、あまりにも評価されてこなかったということである。
本書の中には、秘話として白連の義父宮崎滔天が蒋介石に和平工作に訪中しようとし、その出航直前に憲兵に捕らわれたこと、長男香織が敗戦の直前8月11日に米軍の空爆で爆死したこと、滔天が若き日、心身ともに支援し、後に新中国の指導者となった周恩来、廖承志ばかりでなく、革命家毛沢東との交流の姿が描かれている。
私事となるが私の母は宮崎家との交流があった。香織の戦死により白蓮の姿は激変したと言う。
中国は古き友人を忘れないと言う。孫文生誕130年記念行事に国賓として招待された蕗とともに李香蘭こと山口淑子元参議院議員の姿もある。感動するばかりである。戦後、宮崎龍介、白蓮夫妻が訪中したのは1956年という。勿論、滔天の功績に支えられたものではあるが、元皇族の一員が冷戦の最中、共産国を訪れることが「白蓮事件」以上に大きな反響であったと想像するに困難はない。
悲惨な大規模戦争は、私たちが日常的に目にするロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ、ヨルダン川西岸地区侵攻だけでない。ほとんど報道されていないが、スーダン、エチオピアなど世界各地で悲惨な戦いが続けられている。核兵器保有国の増大もある。
絶対平和を望んだ白蓮は、ガンジーの無抵抗主義を武器を捨てた我が国になぞらえ、世界連邦の設立運動に湯川秀樹、スミ夫妻とともに尽力し、国境、国家というものをもはや不必要なものとしていた。私は、この白蓮の思想が、奇しくもジョンレノン、オノヨーコ夫妻が世界に伝えた平和のメッセージ「イマジン」に繋がることを思い起こした。
ヨーコは安田家の子孫として育ち、3度目の出会いでジョンレノンの連れ合いとなっている。白蓮とヨーコは勿論、面識はなかったが、不思議な縁を感じてしまうのは私だけであろうか。
昨今、歴史を語るもの、特に為政者には、史実の重みを知る責務が求められる。軽薄な発言の繰り返しを耳にするたびに、白蓮と宮崎家の人々の苦難と努力、その功績に、改めて敬服するばかりである。先日、南太平洋のサモアで開催された英連邦首脳会議では、過去の奴隷貿易の「償い」について議論を進めることで合意したという。歴史の重みを感じさせる出来事であった。
最後になったが、飯塚では過去の伝右衛門と白蓮との過去の不幸な関係から決別し、それぞれの功績を伝えていくという。関係者のご尽力とご活躍をお祈りしたい。
(参考)発刊した「旧伊藤伝右衛門の保存を願う会」は飯塚商工会議所内にある。本書は、「福岡県飯塚市のお土産・特産品 飯塚観光ネットショップ」「日本の古本屋サイト」で入手可能。
池田昌博